馴れ初め話

【馴れ初め 気団】「じゃ、本当に奥さんになってくれるか?」と訊いてみた。

 

「じゃ、本当に奥さんになってくれるか?」と訊いてみた。

 

 

 

 

アフガニスタンからソ連軍が

撤退を開始したころ。

 

当時の勤務していた会社の取引先は、

テナント雑居ビルの3階にあった。

 

そのビルの1階は洋菓子屋だったが

喫茶室も併設していたので、

 

取引先は来客があるとそこから

コーヒーなどの出前を取っていた。

 

俺は取引先には週に3~4回

訪問していたので、

 

週に最低1回はコーヒーを

ご馳走になっていた。

 

 


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出前に来る女性はだいたい

決まっていたので、

自然と顔見知りになっていた。

 

出前にコーヒーには

サービスでいつも小さいカップケーキが
付いていたが、

 

甘いものが苦手な俺は

いつもそのケーキを残していた。


ある日のこと。

 

取引先に行く際に出前の女性と

同じエレベーターに

乗り合わせたのだが、

 

軽い会釈の後にその女性がこう言った。

『ケーキはお嫌いですか?』

 

「あ、すんません。甘いものはちょっと苦
手で・・・」

 

ちょっと気まずい雰囲気だったが

すぐに3階に到着したので、

 

俺は逃げるようにして

エレベーターを降りた。


しかし、取引先はいつも通り俺に

コーヒーの出前を注文してくれたので、

 

 

 

 

数十分後にまた先ほどの女性と

顔を合わせることになった。

 

いつも無表情でコーヒーを

運んでくるその女性は、

 

そのときは珍しく笑顔だった。


『今日のケーキは私が焼いたんですよ』

「あ、そうですか。では今日は残さずに
頂きます」


取引先の担当者(年配の女性)は

なぜか俺をニヤニヤしながら

眺めている。

 

『どうですか?お口に合いませんか?』

「い、いや、甘ったるくなくて美味しいで
す」


少し不安そうだった女性は満面の笑み
に変わった。

 

女性が帰った後、

担当者は俺に質問をした。

 

「どう、あの娘?」

へっ?

「さっきの娘よ。一度デートしてみな
い?」

 

あ、はぁ、まぁ、いいですケド

 

「じゃ、決まりね。今度の週末は空いてる
かしら?」

 

そんな感じで初デートを迎えることに
なった。

 

初デートはお互いの職場に近い

レストランバーだった。


嫁は洋菓子作りが趣味で

洋菓子屋に就職したのだが、

 

俺は高校生のころに飲食の

バイトをしていたので、

 

料理に関する話題からわりと

打ち解けて話せるようになった。


取引先の担当者は洋菓子屋の店長と
仲が良かったそうで、

 

田舎から出てきた女子社員に

変な虫がつく前に

 

真面目な男をあてがうように

頼まれてたそうだ。

 

俺は別に真面目な優等生的な

人間ではなかったが、

 

仕事(だけ)は日ごろから

真面目に取り組んでいたので、

 

取引先担当者の眼鏡にかなったらしい。

 

それから、嫁はちょうどこのころに

一人暮らしをばっかりだったので、

 

ひとりで食べる夕食の寂しさなどの

愚痴を言っていた。


女性から「寂しい」なんて言われたら、

そりゃ何とかするのが

「漢」ってなもんで、

 

それからは毎晩電話で

その日の出来事を訊いたり、

 

週に最低2回は夕食を共にした。


不思議なもんで、

毎日とりとめもない話を

していてもそれが習慣になると、

 

何かの拍子にそれが無くなると、

とても不安になるらしい。

 

嫁がある理由で実家に数日

帰ったのだが、

その間は例えようのない

気持ちだったそうだ。

 

嫁が実家から戻ってくるなり

そんな気持ちを訊かされたので、

 

俺も同様だった旨を伝え、

そして勇気を出して告白した。

 

それから約半年くらい経った頃。


2人で初めて入った和食屋で

珍しい料理が出た時に、

 

俺が一口食べてその材料名を

当てたことがあった。

 

カウンターにいた板前さんが感心し、

こちらに向かって

 

「もしかしてコックさんですか?」と

訊いたのだが、

 

何を聞き違えたのか嫁が

真っ赤な顔になってしまった。

 

不思議に思った俺が嫁に

「どうしたの?」と訊くと

『だってぇ、奥さんですか?って言うか
らぁ』と。


俯いて恥ずかしそうに、

でもとても嬉しそうにしている

姿を見て、

 

「じゃ、本当に奥さんになってくれる
か?」

と訊いてみた。

すると『もう!』と言って、

もっと真っ赤な顔になってしまった。


次の日、ちゃんと酒の酔いが抜けてから

前の晩のことをもう一度訊いてみた。

 

嫁はやはり真っ赤になったが、

返事は『喜んで!』と帰ってきた。

 

 

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